今回は、子どもが生まれたあとの親とのコミュニケーションの重要性について見ていきましょう。
赤ちゃんは生後2~3週間から、母親とのコミュニケーションを何らかの形でとっていると言われています。
もちろん生まれてすぐに、赤ちゃんは言語を話せるわけではありません。
しかし、お母さんがマザーリーズ(俗に言う”赤ちゃん言葉”)で赤ちゃんに語りかけることで、赤ちゃんも自分の体をつかって何らかの反応を示そうとします。
そして、この赤ちゃんの反応に対して、お母さんが赤ちゃんに語りかける、このやりとりのことを「サーブとリターン」と言います。
近年の研究で、乳幼児期の「サーブとリターン」は赤ちゃんのさまざまな力を発達させる上でとても大切だということが明らかにされつつあります。
また、脳の発達にも影響をあたえることがわかってきています。
そのため、今回は、乳幼児期の子どもと保護差(周囲の大人も含めて)の「サーブとリターン」の重要性についてみていきましょう。
サーブとリターンが子どもにもたらす効果
継続した「サーブとリターン」は子どものさまざまな力に影響を及ぼします。
たとえば、彼らの好奇心や才能を身につけるうえで影響を与えたり、自己認識を形成する際のきっかけになったりなどします。
ほかにも、認知能力(言語能力や計算能力)や道徳心、社会性などにも影響を与えます。
また、乳幼児期において、子どもがお母さんやお父さんと安定した関係を築くことは、その子どもの人生において重要となる「自信」や「学ぶ意欲」、「善悪の判断」「協調性」などにも影響を及ぼすと言われています。
そのため、生まれたばかりの赤ちゃんは言葉が通じないからといって、会話を怠って、「サーブとリターン」をおこなわないと、子どもは心身がじょうずに発達しない可能性があり、暴力的になってしまったり、反社会的になったりする恐れがあります。
以下では、サーブとリターンで子どもが身につく力などを解説していきます。
子どもが「自分を理解する」手助けをする
よく日本人の若人は他国と比べて自尊感情が低いということが言われています。
詳細が気になる方は以下の内閣府の資料を参照してください。
この自尊感情の低さが乳幼児期の親との接し方と関係があるかはここではわかりません。
ただ、この乳幼児期の親との「サーブとリターン」は、子どもが
「自分とは誰なのか」
「自分は何になることができるのか」」
「他の人々にとって自分はどれくらい大切なのか、そしてなぜ大切にされているのか」
などを認識する上でも重要です。
子どもとの愛情を形成する
イギリス出身の医学者、精神科医、精神分析家ジョン・ボウルビィは、「アタッチメント理論」というものを提唱しました。
この理論は、
「子供は社会的、精神的発達を正常に行うために、少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持しなければならず、それがなければ、子供は社会的、心理学的な問題を抱えるようになる。」
というものです。
このアタッチメント理論は今の時代になっても保育などの分野では重要とされています。
子どもは、養育者との間にアタッチメント(愛情)を形成します。
そして、アタッチメントを形成した養育者を安全基地として、外の世界に少しずつ興味をもち、足を踏み出します。
この「アタッチメント」を形成する上でも、子どものサーブとリターンはとても大切だと主張されています。
生まれて早い時期から、養育者と「サーブとリターン」を継続して繰り返すことで養育者との間にアタッチメントが形成されます。
そして、このアタッチメントは、子どもの長い人生において大きな影響を与えます。
他人の感情や行動などを理解する力など他の人と上手に関係を築いていくために必要な力にもアタッチメントは良い影響を与えます。
赤ちゃんのアクションには、しっかり反応する
赤ちゃんはまだまだはっきりと言語をしゃべることができません。
でも、だからといって、こちらが語りかける必要ないというわけではありません。
こちらが語りかければ、赤ちゃんは必ず何かしらの反応をしてくれます。
そのため、赤ちゃんの反応を見逃さないで下さい!
たとえば、「あー」「うー」という喃語(なんご)や顔の表情、身振りなどが反応しているサインです。
それを見逃さず、しっかりと時間を確保して、サーブとリターンを繰り返すことがとても大切です。
早期の親子の安定した関係は社会性などにも影響
先に述べたように、養育者(母や父)と安定した関係を築けている子どもは、協調性や相手の気持ちを理解しようとする心の土台をしっかりと作ることができます。
そのため、小さいときにお父さんやお母さん、まわりの大人からたくさんの愛情をもらって育った子どもは学校においもて、社会においても良い人間関係を構築できる可能性が高いです。
小さい子どもたちは、他のお友達とたくさん関わり合うことで、たくさんのことを学ぶと言われています。
たとえば、おもちゃなどを共有の仕方やコミュニケーションの撮り方、順番交代など、さまざまなことを学びます。
また、それだけでなく、言語能力や計算能力など、俗に言う”IQ”とも表現される「認知スキル」にも強い関係があると言われています。
そのため、日本であれば、受験や進学においても、良い効果を与えると考えられます。
保育園の時間が長すぎると発達に悪影響を与える可能性も…
保育園に預ける時間が長いと、子どもの発達に悪影響を与えるということがいくつかの研究結果から言われています。(※)
※研究報告
「保育の質研究の展望と課題 秋田喜代美 他」
「乳児保育の室に関する研究の傾向と展望 野澤祥子」
その預けている施設の保育の質がよければ、カバーできるということも示唆されていますが、そもそも保育や幼児教育においての評価の指標が日本では正式にきまっているわけではないので、この点に関してははっきりとは言えません。
ただ、いずれにしても、ここまでのことを踏まえると、子どもが小さいときに、十分な親子の関係を築かないで保育施設などに入れた場合は、保育施設の先生などもひとりの子どもに関わることができる時間には限界があるため、子どもの発達に欠かせない「サーブとリターン」が十分に行われている可能性は少ないです。
また、それが原因で、暴力的な子どもになってしまったり、怒りっぽい子どもになってしまったり、他人に対して警戒心がつよく、よい関係を築けない子どもになる恐れもあります。
繰り返しになりますが、早期の子どもとの「サーブとリターン」は、その後の人生で必要になる力を発達させる上で重要な役割を担っているのです。
幼稚園の先生と安定した関係を築くことも大切
ここ最近、家族以外の養育者、つまり、幼稚園や保育園の先生などと良好な関係を築いた子どもは、学ぶことに対して楽しさやワクワクを感じたり、学校に行くことを楽しく感じたり、自信をもちやすかったりすることが徐々に明らかになってきています。
また、それだけでなく、周囲のお友達との関係も重要で、友好関係がうまくいっている子どもほど前向きに行動できたり、成績がよかったりする傾向があることもわかってきています。
親からの精神的ダメージや暴力は発達に悪影響を及ぼす
お母さんやお父さんとの「サーブとリターン」が子供にとって良い影響をあたえることはわかりました。
しかし、一方で親が子どもに精神的ダメージや暴力などの肉体的ダメージを与えてしまった場合、それらはとても大きな悪影響を子どもに与えます。
さらに、脳の機能にも影響をあたえることがわかってきています。
最近では、虐待やネグレクトなどが問題となっていますが、これらも子どもの心身の発達に大きな影響をあたえる危険があります。
これを読んでいる方は教育に関心が高い方だと想うので、大丈夫だと思いますが、「しつけ」をする際には、しっかりと気をつける必要があります。
サーブとリターンは人生のどの段階でも大切である
「サーブとリターン」は、乳幼児期だけに重要なものではありません。
年齢によって効果の大小はありますが、人生のどの段階においても大切だと言われています。
親以外の大人との安定した関係は子どもにとっても良い
親以外の人と、あまり良い関係を築くと、母親や父親との関係が弱くなってしまうと不安に思う人がいます。
しかし、現時点では、子どもが親以外の養育者(幼稚園の先生や保育園の先生)などと安定した関係を築くことで、親子関係を悪くするなどという結果を示す信頼度の高い研究は出ていません。
むしろ、先にも言ったように、家族以外の養育者との良い関係は子どもに良い影響をあたえるという説のほうが現時点では有力です。
読み書きや計算能力の準備だけでは不十分
幼児教育や早期教育ときくと、読み書きや計算能力の向上などをイメージする人が多いと思います。
もちろん、これらの力はとても大切です。
でも大切なのはそれだけではありません。
親子の間で安定した関係を築いたり、好奇心を培ったり、他のお友達と遊ぶことで社会的スキルを身につけたりすることも大切です。
そのため、小学校に入学する前は、小学校でやる内容をひとりで勉強させる時間をたくさん設けるのではなく、親子で関わり合う時間や子どもたちがいる環境で遊ぶ時間などもしっかりと確保するようにしましょう!
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